オオキンケイギクからチガヤ群落へ

〜長野県天竜川の事例から〜

トップ画像の説明 especmic

天竜川では何が問題となっていたのか

 かつて天竜川の堤防では,時期になると堤防一面がオオキンケイギクの黄色い花に染まっていました。これだけ見事に咲いていたので一時は観光客で賑わったこともあったそうです。ところが,オオキンケイギクが外来生物法で特定外来生物に指定された植物であると知ると,その見方も180°変わるようです。しかし実際のところオオキンケイギクの何が問題なのでしょうか。オオキンケイギクは繁殖力が強く在来生態系への影響が指摘されています。このことに加え,天竜川では堤防の侵食を引き起こす原因ともなっていました。

オオキンケイギクと法面の浸食

 オオキンケイギクが侵入した堤防は確かにかなり浸食されており,堤防法面にはこぶし大の玉石が多く見られる状況でした。オオキンケイギクの生育状況を見ているだけでは,浸食された法面にオオキンケイギクが侵入したのか,オオキンケイギクが侵入したから浸食が生じたのかは明らかではありませんでした。しかし,様々な地点の観察や野外実験の結果,堤防法面の浸食はオオキンケイギクの侵入によって引き起こされたと考えられました。これは天竜川の堤防が1)その昔,河原の砂礫で造成されたこと,2)築堤後に張り芝が行われたこと,そして,3)定期的に除草管理が行われているという条件がそろっていることに起因してるようです。
オオキンケイギクと法面の浸食 especmic
 一般に,河川環境においてオオキンケイギクが多く生育している場所は,攪乱頻度の低い礫河原です。天竜川の場合,堤防は砂礫で築堤されていたため,攪乱頻度の低い礫河原とほぼ同じ環境となっていました。そこに張り芝が行われたわけですが,こうした芝地にオオキンケイギクが侵入すると,芝はロゼット状に広がったオオキンケイギクの葉の下となって著しく衰退し,その部分が枯死します。その後,堤防管理として除草が行われると法面のいたるところに円形の裸地生じ,これらの裸地を起点に浸食が始まったと考えられます。砂礫で築堤された堤防は浸食を受けやすく,再び芝が定着するのが難しい状況となり,オオキンケイギクの好む立地条件が成立し,ますますオオキンケイギクが定着しやすい環境が形成されることになります。このサイクルが繰り返されることで,最終的に堤防法面は急速にオオキンケイギクに覆われる結果となったことが推測されます。ですから,堤防法面からオオキンケイギクを除去するためには何らかの方法でこのサイクルを断たねばならないということになります。

チガヤでオオキンケイギクの生育を抑制できるのか?

チガヤでオオキンケイギクの生育を抑制できるのか? especmic
 チガヤでオオキンケイギクを抑制できるのか?という質問を受けることがありますが,物事はそれほど単純ではありません。天竜川の堤防法面を広く観察してみると,確かにチガヤが優占している場所もあります。もし,単にチガヤがオオキンケイギクよりも強いのであれば,オオキンケイギクが堤防法面一面に繁茂する状況は生じ得ないはずです。しかし,実際にはそうなっていません。植物の生育は生育地の環境条件に大きく左右されますから,オオキンケイギクに適しており,チガヤには適していない環境条件下では,チガヤでオオキンケイギクを抑制することはできないでしょう。しかし,こうした条件を逆にしてみたらどうでしょうか?

土壌条件とセットで考える

 よくある話なのが,オオキンケイギク,オオキンケイギク,オオキンケイギクと唱えているとオオキンケイギクしか見なくなってしまいます。その結果,オオキンケイギクの生態や生育立地ばかりを見て調べることとなります。ても,私たちが知りたいのは,むしろオオキンケイギクが生育していない(生育できない)場所のことです。立地はどういった条件であるのか,なぜ,そこにオオキンケイギクが生育していないのか(できないのか)ということでした。ヒントは,天竜川の堤防の反対側の道路法面,それから天竜川の支流である三峰川の堤防法面に接する水田の畔にありました。特に三峰川では,堤防法面にはオオキンケイギクがかなりの数生育しているのに,水路を挟んで接する水田の畔にはオオキンケイギクは見られませんでした。
 畔の刈り取り頻度が高いことがその理由として指摘されましたが,原因はそれだけではないと,私たちは考えました。道路法面についても同様です。違いは土壌水分量ではないかと仮説をたてました。ある程度の土壌に水分がある場所では,様々な植物が生育することができます。道路の脇に明らかに植栽されたであろうオオキンケイギクは生育していましたから,オオキンケイギクも生育することができます。しかし,実際にはその生育はほとんど見られませんでした。これは,こうした環境では自然に分布を広げることができないからであると考えられます。実験検証しているわけではありませんが,種子発芽特性と関連があるかもしれません(どなたか検証していただけるのであれば,ご協力いたします)。

三峰川の状況 especmic

現場での対策

 工事に際しては,堤防法面の補修とオオキンケイギクの駆除がセットで行われましたので,堤防の表土を深さ40cmではぎ取り,新しい土を腹付けすることとなります。ここで,腹付けする土壌をしっかり選定し,以前とことなる環境条件,すなわち,オオキンケイギクよりもチガヤの生育に適した土壌条件とすることとしました。おそらく土壌pHなど,詳細な条件設定もあったかとは思いますが,今回は,土壌が確保,維持できる水分条件に的を絞りました。天竜川周辺で採集される山砂の中で,微粒子を多く含まない,即ち,適度な空隙を確保できる山砂を用いること,そして土壌改良材を混合することとしました。そこに,浸食防止とチガヤの導入のためにチガヤマットが設置されました。
土壌改良 especmic
 関連情報チガヤは砂質の環境であれば,群落を形成し,一年間に1~2回の刈り取りで群落を維持することが可能です。また,チガヤは草丈が30~50cm程度に成長するため,ノシバの場合と違ってオオキンケイギクのロゼットに被圧されて,円形の裸地が形成されることはありません。天竜川の堤防法面ではノシバよりも適切な植物ということができます。

モニタリング

 工事は2009年に行われましたが,それからおよそ5年後の2014年時点でも堤防法面にはチガヤ群落が良好に維持されています。腹付けの工事は川裏側(堤内地側)で行われましたが,川表川(堤外地側)では,現時点でも一面オオキンケイギクが生育しています。そうした状況においても,チガヤ群落ではオオキンケイギクの侵入定着はごく僅かしか認められていない状況にあります。これは自然状態ではオオキンケイギクの種子がほとんど散布されていないか,あるいは,散布されていても新しく腹付けしてチガヤマットを設置した環境では,種子はほとんど発芽できない状況にあると言えそうです。いずれにせよ,今回の工事では堤防法面に生育する特定外来生物のオオキンケイギクの駆除を行い,在来種であるチガヤ群落を成立させることができました。

施工前 especmic 2010年10月の状況
施工後 especmic 2012年7月の状況

これからの課題

 堤防は人工的に造成された環境ですが,定期的な除草が行われることで,近年では減少傾向にある草地が維持されている環境ともいえます。天竜川の堤防法面を広く観察してみると,カワラナデシコ,ワレモコウ,ツリガネニンジン,アキカラマツ,ヤブカンゾウなどの植物の生育が確認されました。堤防法面緑化は浸食防止などの目的で行われるため,今回の工事ではその木気は達成されたといえますが,将来的には,こうした植物を取り入れた生物多様性のある緑化ができるようにしたいと考えています。

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