生物多様性保全を考慮した維持管理

私たちはビオトープだけではなく芝生や道路の植栽帯植でも生物多様性の保全を行うことができると考えています。そこで鍵となるのは維持管理方法だと考えています。


はじめに様々な植物を植栽すると生物多様性が増す?

 よくある話ですが生物多様性を増すために植栽する植物の種類を増やすという考えがあります。確かに最初に様々な植物を導入することは単一の植物のみを導入するよりも良い結果が得られると思います。しかし植栽する植物の種類を多くすれば生物多様性が増すとか保全になるかというと、それほど単純な話ではありません。

 実際,色々な植物を植栽しても放置しておくとその環境条件にあった一部の植物だけがよく成長し、緑地を構成する植物の種類は変化していきます。また樹木が大きく成長すれば林内は暗くなりますから明るい草地の植生は徐々に衰退して暗い林床に適応した植生に変化します。植生の変化に伴いそこに生息する動物相にも変化が生じます。一方、定期的に除草が行われる環境では樹木は育たずに草原が維持され、草原特有の生物相が維持されます。樹林においても伐採が行われれば、再び明るい草地の植生が形成されます。どのような時間軸で評価するかの問題となりますが、いずれの場合においても多様な生物が生息し、生物多様性の保全には貢献するものと言えます。


維持管理に生物多様性保全の要素を加える

 除草や剪定などの維持管理は生物多様性の視点から見ると生物同士の相互関係を意図的に崩したり(いわゆる中規模攪乱),植生遷移を途中でリセットしたりする効果があります。意図したわけではありませんが,雑木林の落ち葉拾いや薪炭林の伐採,あるいは草地への火入れは結果としてそこに生息する生物に影響を与えてきたといえます。今日の緑地の維持管理は景観の維持にその主眼がおかれていますが,既存の緑地でも維持管理方法やその頻度、強度を変えることで生物多様性の保全という要素を加えることができるのではないかと考えています。


維持管理で既存の緑地に生物多様性を


工場跡地に創出した在来種草地
 企業が持っている既存の緑地や空き地においても維持管理の仕方を変えることで、単なる緑地から生物多様性のある緑地へと転換できると考えられます。状況にもよりますが維持管理にコストがほとんど変わらないのであれば尚更です。生き物にあふれていたかつての雑木林や草地は、人間の経済活動の副産物であったと言えます。こうした観点から、企業の緑地においても維持管理コストをあまりかけずに無理せず生物多様性を継続的に維持できる方法を検討することが大切です。道路やショッピングセンターの植栽帯には一般にオオムラサキツツジやサツキツツジなど単一の植物が植栽されることが多いと思います。全ての緑地を生物多様性の保全の対象とすることはできませんから、これはこれで良いと思います。しかし、これらの植栽帯にチガヤなどの植物が侵入定着した場合その維持管理はとても大変なものになります。このような状態になってしまった場合、思い切って ノアザミやワレモコウなどの様々な植物の生育するチガヤ草地に転換することも一つの方法と言えます。こうしたチガヤ草地には生物多様性の保全を期待できるだけではなく、従来の植え込みよりも維持管理コストが安価になる利点もあります。



草地から樹林へ、そして再び草地に


 かつてビオトープとし整備された場所で、維持管理をせずに放置してしまった場合、日本の環境では次第に樹林化して行きます。はじめはバッタやトンボが多く見られましたが、樹木が鬱蒼と茂ようになるとカブトムシやクワガタムシが見られるようになります。一度成長した木は伐採することに抵抗感が出てきてしまいますが、わずか10年程度の期間でこのような変化が生じるわけですから、10年サイクルで成長した樹木を伐採し再び草地を創出することも生物多様性の保全を考えた維持管理と言えます。この場合の維持管理とは何を維持するものなのでしょうか。実は「変化する環境」を維持するということになります。

いきもの広場 2011-08-11 2011年8月。樹木植栽直後の状況。
いきもの広場 2018-08-21 2018年8月。7年後の状況。