地域性種苗による緑化
企業の生物多様性への取り組みを背景に、その地域に生育する植物を用いた緑化へのニーズが増えつつあります。
地域の植物を用いた緑化を行うには対象とする地域植物から種子や植物を採集し、それらを増やして緑化に用いる必要があります。
エスペックミックでは地域の植物を用いた緑化を行っており、その地域に生育する植物の調査、種子や植物の採集、そして地域の苗の生産を行っております。地域の植物を使った緑化に関心をお持ちであれば是非ともお問い合わせください。
地域性種苗を利用するための手順
地域の植物を用いて緑化を行うためには、少なくとも、利用可能な植物の分布の把握、種子や植物体の採集、苗の生産等による増殖の手順が必要となります。エスペックミックではこれら全部の実施、あるいは一部のお手伝いをすることができます。
種子や苗の在庫を確認する
エスペックミックでは様々な地域で種子採集を行っています。採集した種子はID番号を付けて冷蔵庫で保管しています。ID番号からその種子の産地や採集日が分かるようになっています。まずは、使用したい植物について在庫があるをご確認ください。また、エスペックミックではネットショップで
雑草のたねの販売も行っております。
既に対象とする地域で採集した種子をお持ちの場合、弊社で苗を生産することも可能です。
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利用可能な植物の分布を把握する
まず、その地域でどのような植物を利用することができるか調べる必要があります。大都市近郊では美しい花を咲かせるような在来種がほとんど生育していない場合がありますが、ごく普通に生育する植物を含めれば都市から少し離れた場所には利用可能な地域の植物が多く生育しています。
利用可能な植物の探索は植物に対する知識だけではなく、それらがどこに生育しているかを把握するための「勘(かん)」が必要となります。一般にこうした調査は植生調査会社が専門的に行っていますが、調査会社はある特定の地域に何が生育しているかを調べることを目的としますが、エスペックミックでは利用可能な植物がどこに生育していて、どこで種子あるいは苗を採集できるかを調査することを目的としています。両者に共通点はありますが、相違点も多くあります。目的の違いはその後の手順に影響を与えることとなります。
種子や植物を採集する
地域の植物を利用する場合、できるだけ種子を用いるようにしています。これは地域の植生に対する影響を最小限にするとともに、少ない労力で多くの苗を得ることができるからです。対象が草地に生育する植物である場合、目当てとしていた場所で草刈りが行われてしまう場合があります。ですから同じ種類でも種子採集候補地を複数ヶ所確保しておく必要があります。
植物の中には種子の採集が難しい種類もあります。その場合には植物のシュート(枝と葉の総称)を確保して挿木を行うことがあります。あるいは、種子の採集が困難な種類で全国に普通に生育している植物、例えばオオジシバリ、ムラサキサギゴケ、カキドオシなどは植物体を掘り取って採集し、圃場で増やします。一方、貴重な植物の場合には苗を掘り取るとその場所で絶滅してしまうものもあります。そのような植物については緑化対象から外したほうがよいでしょう。
苗を生産する
種子や植物体を確保できたら圃場で苗を生産します。種子は植物によって発芽時期が異なりますので、それぞれの植物に合わせて種子を蒔きます。植物によっては種を蒔く前に種子を湿潤状態で冷蔵したり種子の表面を傷つけたりして、発芽率を上げたり発芽時期を合わせたりします。挿木の場合は採集したシュートを適切な長さ(10cm程度)に切って鹿沼土などにさして発根を待ちます。1シュートからは2〜5本程度の苗をつくることができますが、挿し木は植物種によって時期を選びますからうまく苗ができない場合もあります。オオジシバリ、ムラサキサギゴケ、カキドオシなど、ランナー(匍匐茎)で旺盛に繁殖する植物の場合、少量の苗から一夏でかなりの量に増やすことができます。
苗は用途に応じて様々な大きさのものを作ります。草地をつくる場合には大量の苗が必要となりますので、φ2cmの小さな苗である
ルートボール・ミニの利用がおすすめです。
ルートボール・ミニは種子から生産するため大量の苗を供給できると共に、短期間で出荷することができます。地域の植物の種子採集にはそれなりの時間がかかりますから(およそ1年程度)、苗の生産期間を短くできることは大きな利点があります。また一般的なポット苗はφ9.0〜10.5cmなので苗の植栽にはそれなりの時間がかかります。しかし、
ルートボール・ミニを利用すれば極めて短時間で苗を植栽することができます。
ルートボール・ミニについて詳しく見る >
ルートボール・ミニを鉢上げして育成すれば土ポット苗を生産することができます。土ポット苗として育成させた場合、より大きな植物苗となります。そのため、現場に植栽した植物はルートボール・ミニよりも早く成長します。現場に既に他の植物が生育していたり、植栽直後にできるだけ完成形に近づけたい場合には土ポット苗を用いる方が良いでしょう。
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どこまでを地域の植物の範囲とするか
地域の植物を使う上で判断が難しいのはどの範囲を地域の植物として扱うかです。これは専門家でも意見が分かれるところですが、緑化を行う地域の近隣から植物を集めることができれば問題はないかと思います。しかし簡単には近隣で使用する植物すべてを見つけることができないこともあります。そうすると範囲を広げなければなりません。
遠くから植物を導入する際、度々「遺伝子が異なるから...」、という話が出てきます。この遺伝子の話、人間の個人を特定するDNA鑑定とはちょっと異なりますので注意が必要です。植物の場合、特定の範囲に生育する個体の集まり(集団)が持っている遺伝子やその組み合わせが、ある集団と別の集団とでどの程度の差異があるのかが数量的に出てくるものとなります。その結果から両者が同じなのか、ほとんど同じなのか、そこそこ違うのか、全く違うのかなど解釈することとなります。しかし、ほとんど同じだったり、そこそこ違ったりする場合、単純に「同じ」とか「違う」とか言えませんから判断に迷うことになります。sそこに地理的にかけ離れた集団の情報を付け加えると最初の2集団の違いは相対的にほぼ「同じ」になったりもしますから、ますます困ってしまいます。
こうした集団間の遺伝子の違いは植物の繁殖様式や種子散布様式、例えば自家受粉ができるできない、種子繁殖のみで増える、風媒化である、風散布種子である、栄養繁殖が卓越しているなどに影響されます。ですから、植物の種類によって、近隣の範囲はかなり変わってきます。さらに、実際にはそれだけではなく昔から行われている農業や林業などの人間活動に伴う植物個体の移動も遺伝的な違いに影響を及ぼしていますし、全国的な人の移動や物流あるいは工事に伴う土砂等の移動などによる意図的あるいは非意図的な種子や植物体断片による集団への新たな遺伝子の流入もあります。種類によってはそれが自然による分布なのか、人間活動に伴った結果であるのか既に分からなくなってしまっているものもあります。
あくまでも一般論ですが、風媒花で風散布種子の場合集団内の遺伝的な変異は大きくなり、集団間での違いは小さくなる傾向にあります。これに対して、栄養繁殖が卓越している植物の場合、集団内の遺伝的な変異は小さくなり、集団間の遺伝的な違いは大きくなる傾向にあります。ここで、集団というよくくわからないまとまりをどうとらえるかが課題となります。すくなくとも都道府県や市町村の単位ではなことは確かです。ですから〇〇県産とか限定する必要はないかと思います。いくつかの植物に関しては研究結果が論文として発表されていますので、恣意的な区切りをつくる前に対象とする植物の遺伝的変異に関する論文に目を通して地域の植物の範囲を考えることが大切です。
地域の植物を利用するのであればそれなりの費用がかかります。その植物が本当に対象地の近隣から探さなければならないものであるのか、遺伝的な違いがほとんど無く、広い範囲を対象とすることができるものかを分けて範囲を設定することが現実的かつ経済的な対応といえるでしょう。現在発表されている論文だけでは対象とする全ての植物種は網羅されていないと思います。ですから、どの植物をどの範囲で探索採集すべきかについて判断に迷う場合には、地域の専門家に助言を求めることをお勧めいたします。